ラヴソング
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レビュー
時代を超えた楽しみ名作。
たとえばある人間が、ある感情とか、意志とかの一つだけを、極度に昂奮させたまま眠りに落ちたとする『あのダイヤが欲しいナア』とか『憎いアンチキショウを殺してやりたい』とか思って昂奮しいしい眼をつむっていると、やがて、その脳髄が熟睡のドン底に落ちた時に、その脳髄と一緒に睡っている細胞の中でも、その意識だけがタッタ一つ睡り遅れて眼を醒ましている。そうしてその意識は、良心とか、常識とか、理知とかいうものと連絡を失った、片チンバの姿のままで起き上って全身の細胞が持っている反射交感作用を脳髄の代りに使いながら動きだす。そうして全身の細胞の中から、必要に応じて勝手気に呼び起した判断、感覚なぞいうものと連絡を取りつつ、見たり聞いたり、考えたりして、望み通りの仕事をする。欲しいダイヤを失敬したり、憎いアンチキショウを殺したりするのであるが、しかし、そんな仕事をしている途中の出来事は、脳髄を通過した印象でないから、チットモ記憶していない。あとで眼を醒ましてもケロリとして、平生とチットモ変らないアンポンタン・ポカン人種に立ち返っている。たとい盗んだダイヤモンドや殺した相手の死骸を突付けられても、知らないことは白状できないので、いよいよアンポンタン・ポカンとなるばかりだ。
彼の看護婦はまた別の意味からして、この美しい看護婦を好く云わなかった。
自分は枕まくらを借りて、少女の隣の空室あきべやへ、昨夕ゆうべの睡眠不足を補いに入った。
曼陀羅院長の眼の光が柔らぎました。こころもち歪んだ唇が軽く動き出しました。
という返事であった。
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