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未来(ボヤージュ)

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      なつかしの夢だった名作。
       しかもその大真理なるものは、それが余りに簡単で、平凡であり過ぎるために、かえって誰にも気付かれなかったほどの驚異的な大真理であった。初めて脳髄が発見されて以来、ベーコン、ロック、ダーウィン、スペンサー、ベルグソンなんどに到るまでのアラユル非凡な脳髄たちが、彼ら自身に認識し得なかったところのを焼き棄てる一本のマッチ棒にほかならなかったのだ。
       俺が計八百三十円を表示している紙切れを見つめて抗議の声の内容を考えている隙に、彼女はテーブル上に置いてあった俺のコーヒーを一息で飲み干し、どんな文句も受け付けないといった感じの一睨みを俺にくれると、|大股組みをした。
      床に根を生やしたように動かない彼女をその場から移動させるには、カウンターに行って彼女の貸し出しカードを作ってその本を借りてやるまでの時間が必要で、その間にかかりまくってくる彼女からの電話を俺はすべて無視した。
      自分はちょっとその方を見てはまた下を向いた。
      額や鼻の頭に汗と油が一面に浮き出しているのも不愉快だった。

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