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モノノ怪 参之巻「のっぺらぼう」

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      不朽の手放せ無い名作。
       たとえば人間が、不消化物をのみ込んだまま眠っていると、その間に、胃袋の細胞だけが眼を醒ましてウンウンと労働している。ああ苦しい、やりきれない、これは一体どうなることか、どうしておれたちばっかりコンナにひどい目に逢わされるのかなどと不平満々でいると、その胃袋の細胞の涯しもない苦しい、不満な気持ちが、一つの連想となって脳髄に反映されて行く。すなわちその苦しい思いの主人公が、罪のないのに刑務所に入れられて、重たい鎖に繋がれて、自分の力以上の石を担がせられて、ウンウン唸りながら働いているところ不可抗的な大きな地震で、家の下敷になって、もがきまわって、悲鳴を上げているところなぞそのうちにその苦しい消化の仕事が楽になって来るとヤレヤレという気持ちになる。そうすると夢の中の気持ち脳髄に反映されて行く連想や空想の内容も楽になって山の絶頂で日の出を拝んでいるところだの、スキーに乗って素晴らしいスロープを一気に辷り下る気持ちだのに変る。
      自分はそれでも我慢して容易に窓側まどぎわを離れなかった。
      そうしたら実は「あの女」について自分はある原因から特別の興味をもつようになったのだぐらい答えて、少女を少し焦じらしてやろうという下心さえ手伝った。
       跳って、中禿を巧みに隠した頭を下げました。
       どうも驚いた。庚戌会と言えば謹厳な学術の報告会、兼、茶話会みたようなものと思ったが、なかなかどうしてエライ景気だわい。会費の十円の意味も読めるし、幹事の白鷹君の隅に置けない手腕のほども窺われる。こんな事なら鹿爪らしいフロック・コートなんか着て来るんじゃなかったと思ううちに待合室みたような部屋へ案内された。見ると周囲の上までも帽子と外套の推積で一パイである。かれこれ五、六十人分はあるだろう。大会だけによく集まったものだ。

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