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春のワルツ Vol.1

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      懐かしい暖かいを。。
       アハハハハハ。大本教のお筆先と間違えてはいけない。われわれが日常に経験している極めて平凡な事実だ。われわれの気持ちが朝から晩までフンダンにクラリクラリと変化し、入れ換って行く活動見に出かけるつもりが、途中でフイッと縁日の夜店に引っかかったり旅支度で家を飛び出した奴が、図書館にモグリ込んだり好いた同士が結婚間際でイヤになったり鉄で探し当てたタッタ一つの就職口をハガキ一本で断ったりするような、重大な心理の変化が引っきりなしに起るのは、そうした種々雑多な、無量無辺の暗示が、引っきりなしにわれわれの心理遺伝を支配しているからで、それを自分自身に気付かないでいるのは、そうした暗示と心理遺伝の関係の千変万化が、あまりに刹那的で、微妙、深刻を極めているからだ。
      「君に才覚ができるのかい」と少女は聞いた。
      向側は立派な高塀たかべいつづきで。
       桜木町から二円を奮発した私が、内幸町の丸の内倶楽部へタクシーを乗り付けたのが午後の八時半頃であったろうか。実は女風情の言う通りになるのがこの際、少々業ではあったが、自動車に乗り込むと同時に気が変って、狭苦しい迷宮じみた下六番町あたりの暗闇を自動車でマゴマゴするよりも、解り易い丸の内倶楽部へアッサリと乗付けたい気持になったからであった。
       相手は静かに私の瞳を凝視した。いかにも悪党らしい冷やかな笑い方をした。

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