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メルヘヴンZ(ツヴァイ)9

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      不朽のかっこいいマスターピース。
       たとえばある人間が、ある感情とか、意志とかの一つだけを、極度に昂奮させたまま眠りに落ちたとする『あのダイヤが欲しいナア』とか『憎いアンチキショウを殺してやりたい』とか思って昂奮しいしい眼をつむっていると、やがて、その脳髄が熟睡のドン底に落ちた時に、その脳髄と一緒に睡っている細胞の中でも、その意識だけがタッタ一つ睡り遅れて眼を醒ましている。そうしてその意識は、良心とか、常識とか、理知とかいうものと連絡を失った、片チンバの姿のままで起き上って全身の細胞が持っている反射交感作用を脳髄の代りに使いながら動きだす。そうして全身の細胞の中から、必要に応じて勝手気に呼び起した判断、感覚なぞいうものと連絡を取りつつ、見たり聞いたり、考えたりして、望み通りの仕事をする。欲しいダイヤを失敬したり、憎いアンチキショウを殺したりするのであるが、しかし、そんな仕事をしている途中の出来事は、脳髄を通過した印象でないから、チットモ記憶していない。あとで眼を醒ましてもケロリとして、平生とチットモ変らないアンポンタン・ポカン人種に立ち返っている。たとい盗んだダイヤモンドや殺した相手の死骸を突付けられても、知らないことは白状できないので、いよいよアンポンタン・ポカンとなるばかりだ。
      一寝入するとすぐ眼が覚さめた。
      雑巾をゆすがないので、せっかく拭いた所がかえって白く汚れた。
       曼陀羅院長は田宮課長の敏速な手配にもかかわらずトウトウ捕まらなかったらしく、今日の日が暮れるまで何の音沙汰もありませんでした。したがって彼氏が、彼女とどんな関係を持ったドンナ種類の人間であったか。どうして彼女の遺を手に入れたか。いつから彼女の蔭身に付添って、どの程度の黒い活躍をしていたかと言ったような事実はまだ推測出来ません。
       しかし彼女に対する私達の驚異は、まだまだそれくらいの事では済まなかった。

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